黒部市芸術創造センター セレネ

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幻の瀧/平山郁夫

[開催日] 1995年
セレネ美術館

題名 幻の瀧(まぼろしのたき)
画家 平山郁夫(ひらやまいくお)
制昨年 平成7年(1995)

作品解説
深い緑と岩壁を切り裂くように走る真っ白な流れ。十字峡の支流、剱沢に位置する剱大滝を上空から取材した作品である。
高度差135m、全12段よりなるこの滝への到達は困難を極め、これまで滝の全貌を見た者は数えるほどにすぎない。瀑布の音が峡谷に響きわたるが、滝の姿は見えないため「幻の滝」の通称をもつ。
昭和57年(1982)ベテラン山岳ガイドの高嶋石盛は、剱沢の完全遡行と大滝全段の登頂に成功。測量と撮影を行い、世に紹介したことによって大反響を呼んだが、到底普通の人間の行けるところではなく、また上空からでも滝の全貌を見ることが不可能なため、現在でもまさに「幻の滝」であり、秘境黒部を象徴する滝となっている。
平成6年(1994)7月、セレネ美術館の招待により入峡した画家は、高嶋の案内により峡谷中を取材した。そのなかでも特に力を注いで描いたのが、この幻の滝である。ヘリコプターのホバリングによるわずかなスケッチ時間の中で、画家の心をとらえた黒部の雄大さが画面中を占めている。
重厚な岩絵の具の色彩による陰翳に富んだ画面は、人を寄せ付けない荘厳さと神秘性に満ちている。同時に、そこからは、純朴なまでに一心に自然の風景を描き取ろうとする画家の姿が浮かび上がってくる。
ここに込められているのは、画家の自然への畏敬の念であろうか、それともヒマラヤで消息を絶った高嶋への追悼の念であろうか。不思議と静かな画面の奥から、なにか祈りのようなものが感じられてならない。

画家略歴
平山郁夫は昭和5年(1930)広島県生まれ。日本美術院理事長、東京芸術大学学長を歴任したほか、ユネスコ特別顧問や文化財保護振興財団理事長として国際的な視野で活躍した。平成21年(2009)79歳で逝去。