黒部市芸術創造センター セレネ

Museum Story セレネ美術館 物語

セレネ美術館は平成5年、黒部峡谷の玄関口にある宇奈月温泉郷に誕生しました。
「黒部峡谷の大自然を、絵画芸術を通して未来へ伝える」ことを基本理念としており、その実現のため
現代日本画壇を代表する7名の画家に作品の制作を依頼しました。
この趣旨に賛同し、黒部の自然に魅せられた画家たちは、山岳ガイドや美術館スタッフとともに黒部の様々な場所を取材しています。
その様子を少し紹介いたします。

手塚雄二画伯

十字峡の支流、剣沢に位置する「剣大滝(つるぎおおたき)」への到達は、切り立った断崖や激流に阻まれ困難をきわめます。
これまでその全貌を見た者は数えるほどに過ぎないところから「幻の滝」の名を冠されています。
この滝を描くことに挑んだのが手塚雄二画伯です。登山は全くの素人であり、命懸けの取材となりました。
峡谷にキャンプを張っての1泊2日の行程を、プロの山岳ガイド2人と画家の計3人で行っていただきました。
ようやく着いた滝の脇の崖を30mよじ登り、間近に滝口を見上げながらスケッチされました。
落下防止のため腰に命綱をつけての取材でしたが、描くのに夢中になり、瞬く間に4時間が過ぎたそうです。
取材を終えて帰京した画家でしたが、なかなか作品の制作に着手できませんでした。
間近で見た大滝の迫力をどう描いたらいいか悩んでいたためです。
300枚以上の下絵を描き、1年の歳月をかけてようやく完成したのが縦約2m、横約4mの大作「幻の瀧」です。

宮廻正明画伯
宮廻正明画伯

トロッコ電車の「後曳橋」は深い谷にかかっており、その上流には、ダムに貯めた水を発電所に送る導水橋が2本かかっています。
この3本の橋を一枚の絵におさめたいとのことで、宮廻正明画伯は空中からこの場所を見下ろした視点で描くことにしました。
そのため、何度もここを訪れ様々な角度から綿密な取材を行っています。

福井爽人画伯

ダム湖の立ち枯れの木々を描くため、福井爽人画伯は水辺の草むらの中で、虫と闘いながらスケッチしています。

田渕俊夫画伯

黒部奥の地下トンネルの中で、人知れず作り出されている氷筍(ひょうじゅん)。
上から滴る水滴が地面で凍りつき、それが繰り返されて成長していく氷の柱を描くため、田渕俊夫画伯は
真冬のマイナス20度という極寒の中、この神秘的な造形を取材しました。

平山郁夫画伯
平山郁夫画伯

平山郁夫画伯はヘリコプターから幻の滝を取材しました。
ほんのわずかな滞空時間の中ですばやく正確に描かれるのは魔法を見ているようでした。
猿飛峡を描くときは、一番いい構図を求めて崖のふちに座ってスケッチしています。

こうして、開館当初は一点も無かった黒部峡谷取材作品は、画家たちの熱心な取り組みのおかげで次第に完成し
現在、作品27点、スケッチや下図34点を所蔵するまでになりました。
これらは一部入れ替えながら常設展示しており
画家たちが作品に込めたメッセージを多くの人たちに受け取ってもらいたいと願っています。